保存はしなやかな抵抗である。
保存とは、過去を固定するための技術ではない。
忘却や断絶、抹消に抗い、「ここに確かに存在した」という痕跡を未来へ手渡すための実践である。
文化財保存の現場では、すべてを残すことはできないという現実に向き合い続けてきた。収蔵庫には限りがあり、災害や戦争、都市開発、少子高齢化によって、多くの文化や風景、人々の営みは失われていく。
保存とは、何かを永遠に留めることではない。むしろ、何を未来へ託すのかを問い続ける倫理である。
制作もまた、その問いから始まる。
美術館に収蔵されない作品、記録されない地域の記憶、名前の残らない人々、失われた文化、変化し続ける物質、生態系──制度の外側へ零れ落ちていく存在に目を向け、「そこに確かに存在した」という痕跡を未来へ手渡すための方法を探究している。
制作は保存の代替ではない。保存という制度ではすくい上げることのできないものに、新たな継承の方法を与えるための実践であると考える。